2025/04/11(金) 19:38:09 08uPf759LL [iPhone]
かには祖父の形見の懐中時計を、古びた引き出しの奥から見つけた。止まった針、傷だらけの外装。それを手に取った瞬間、幼い頃の記憶が一気によみがえる。
「時間はな、命みたいなもんや」と祖父は言っていた。ぼーっとしてた少年のかにに、何度もそう言い聞かせたっけ。
修理に出して、数日後。懐中時計は静かに時を刻みはじめた。かにはそれを胸ポケットにしまい、空を見上げる。
「じいちゃん、俺もちゃんと時を進めるわ」
風が吹いて、どこかで鐘の音が鳴った。止まっていたのは時計じゃない。かにの中の時間だった。